TRUNK(HOTEL)は、7月1日(水)に約3カ月ぶりに営業を再開する。
新型コロナウイルス感染防止のため3月30日に休業を発表して以来、休業を継続していたが、その長い休業期間中をどのように過ごしていたのか。また、ホテル業という新型コロナウイルスの影響を大きく受け、事業環境が突如として大きく変化した業界にありながらも、”楽しみながら”新しい環境に立ち向かおうとしているという。どのような取り組みを行っているのか。
TRUNK(HOTEL)の休業期間中の裏側や、今後を見据えた取り組みについて、TRUNK(HOTEL)総支配人であり、株式会社TRUNK取締役運営部長である古賀久夫へのインタビューを実施した。
安全・安心は当たり前に担保した上で、「これまで以上に楽しんでいきたい」。事業環境の変化も楽しんでいきたい。
― 約3カ月ぶりの営業再開です。どのような再開方法をとるのでしょうか?
まずは、新型コロナウイルス感染症に罹患された方々には謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早いご快復を心よりお祈り申し上げます。
TRUNK(HOTEL)は、7月1日より一部縮小営業ながらも営業を再開できる運びとなりました。
営業再開に際しては、感染防止に万全の対策を講じ(注)、安心・安全を担保した上で、ゲストにご満足いただけるよう、「これまで以上に自分たちも楽しんで、皆様にも楽しんでいただきたい」と考えています。
例えば、メインダイニングTRUNK(KITCHEN)では座席の間隔を広げますが、屋外のテラス席の範囲をパブリックテラス(中庭)まで広げてゲストにとって居心地のよいレイアウトになるよう考えています。その他、ソーシャル・ディスタンスを確保しつつも楽しめるよう館内のアートワークの展示方法を変えるなど、全館で工夫をしているので、是非一度新しいTRUNK(HOTEL)にお越しいただければと思います。
※注:TRUNK(HOTEL)の新型コロナウイルス感染症対策についてはこちらをご覧ください。
― TRUNK(HOTEL)は早い休業判断でしたね。
私たちは3月30日に休業を発表しました。
これは、緊急事態宣言の発令前で、その時期に休業を判断したホテルはほとんどなかったのではないかと思います。さまざまな方面から批判を受けるのではないかという懸念もありましたし、何よりご予約いただいていたゲストにご迷惑をお掛けすることになるので何度も議論を重ねました。
ただ、理念・価値観と照らし合わせ、「他社とは違っても、自分たちが正しいと思うことをしよう」と決め、ゲストや社員を守ることが世の中を守ることに繋がるとして休業の判断を下しました。
― 営業再開後には事業環境がガラっと変わってしまいますね。
TRUNK(HOTEL)は、日本で初めてのブティックホテルとして海外での知名度が高く、宿泊客の8割は欧米からの旅行者でした。当面その需要が見込めないことは、やはり我々にとって厳しいことです。
ただTRUNK(HOTEL)は、コロナ禍前は連日満室続きで、泊まりたいのに予約がとれないという日本在住の方もそれなりにいらっしゃいました。欧米からのゲストは宿泊日の随分前に予約をされるので、そちらでほぼ埋まってしまうためです。そうした方々にお越しいただけるのであれば、これまでとは違うフィードバックをいただけるでしょうし、我々にとって新しい出会いがあるのは楽しみです。
長い休業期間~再開後の客足が少ない期間を「TRUNKらしい人材開発を強化する期間」とし、TRUNKならではの取り組みを実施した。
―休業期間中はどのように過ごしていましたか?
ありがたいことに、休業前は稼働率も高く、目の前のゲストへの対応に全力を注ぐ毎日でした。なので、休業期間中は一度立ち止まって、今までできなかったことに落ち着いて取り組もうと考え、「TRUNKらしい人材開発を強化する期間」としました。元々、4月からスタートした新年度は理念を深く浸透させる年にすると決めていました。この休業期間はそのスタートのタイミングにあたるので、理念を体現してくれるTRUNKメンバーのスキルを底上げしようと考えたのです。
具体的にどのような取り組みを行ったかというと、言うなれば「一斉ジョブローテーション」。営業再開後も当面以前のような客足が見込めないため、今までより通常業務の工数が減ることを逆手に取った、今しかできない取り組みです。
まず、ホテルの運営メンバー126名一人ひとりについて、各チームのマネジャーが長期的な目線から強化して欲しい・スキルを身につけて欲しい”他部署の”業務を選定します。一人あたり1~3部署の業務を強化領域として定め、業務全体に占める割合を5%単位で可視化します。
本人とオンライン面談を実施して合意を得た後、その強化領域に基づき、営業再開後のスケジュールやシフトを組みます。例えば、フラワーデザインのメンバーを私付けにして”収支計画策定”を学んでもらったり、レストランのレセプショニストに”販促戦略・施策”を学んでもらったりといった具合です。
―営業再開後に一斉ジョブローテーションに入るのですね。どのような効果を期待していますか?
まもなく営業再開ということもあり、一部のメンバーは既に他部署の業務を体験していますが、早くも良い効果を得ている実感があります。例えば、イベントセールス(B2B)のメンバーが、ウェディングセールス(B2C)にチャレンジしていますが、同じセールス業務といっても考え方やアプローチ方法が全く異なるので「違う”筋肉”を使えて勉強になります」なんて言っていました。私付けのメンバーも「総支配人って何をしているかわからなかったのですが、こんなことを考えていたんですね」と言われたりして、スキルアップに加えて「相互理解」に繋がっていると思います。
TRUNKでは、「相互理解」を大切にしています。
なぜならホテルは、「チームワーク」だから。ゲストからある一部のサービスで悪い印象を持たれてしまえば、ホテル全体の印象が下がってしまいます。自分が所属するチームが良ければそれで良いのではありません。他のチームが何をしているのか、どういうことを考えているのかを理解する、横の連携が大切なのです。この取り組みは、既にその横の連携に貢献し、相互理解に繋がっていると思います。
また、メンバーのキャリア形成にも影響を与えることを期待しています。
新しい業務を経験して、彼らの幅を広げることはTRUNKにとってプラスです。本人と部署の希望がマッチングすれば他の部署に異動できる「TRUNKドラフト会議」を今年から運用予定なので、そこにも繋がるとよいですね。
休業中はたくさんのメンバーが自分なりに貢献しようと、オンラインレッスンをたくさん発信してくれた。
―その他には休業期間中に何かしていましたか?
休業が入って早々に、たくさんのメンバーが、自発的に社内のビジネスチャットを通じてオンラインレッスンを発信してくれました。
例えば、バーテンダーのメンバーが「自宅で作れるカクテルレシピ」を紹介する動画を投稿してくれたり、ベストボディの大会に出場していたメンバーがオンラインの「ボディメイクレッスン」を開いてくれたりと、みんな自分の強みを生かしてたくさんのレッスンを発信してくれました。そのうちに、あるメンバーがそういう発信を集約したプラットフォーム「TRUNK CHANNEL」を作ってくれました。
休業中、サービス職など通常業務がなくなってしまったメンバーも多かったのですが、みんな自分なりに何か貢献しようと一生懸命考えてくれていました。嬉しかったです。
5月13日にはTRUNK(HOTEL)は3周年を迎えたので、メンバーが一堂に介してのオンラインパーティを開催しました。180名規模の大きなパーティでしたが、みんなの元気そうな様子をみてほっとしましたし、元気を貰えました。毎年周年パーティはいつも私たちを支えてくれているゲストやパートナーに感謝をお伝えする場でもあるので、彼らと同じ時を過ごせなかったことは残念です。
来年は開催できるようになっていたら嬉しいなと思っています。
― TRUNKは能動的なメンバーが多いのですね。
はい。実は先に述べた一斉ジョブローテーションも、もともとはマネジャーたちからの提案でした。営業を再開しても以前のような集客が戻らないとみられる中、今しかできない取り組みで自部署の人材を成長させたいという強い想いがあり、私は彼らの提案を聞いて「そうか、いいね!」と即OKしました。
創業以来、TRUNKのメンバーは皆、「会社は自分たちのもの」という強い当事者意識を持って日々の業務に取り組んできました。
また、TRUNKには決められたサービスマニュアルというものがありません。
それは我々のターゲットが旅慣れたライフスタイル感度の高い方々であり、決められた画一的なサービスを提供するだけではあらゆるサービスを体験してきた方々にご満足いただけないためです。そのため、彼らにサービスを提供するメンバーがゲスト一人ひとりに対してサービススタイルをアジャストさせていくことが不可欠で、メンバーには高い主体性・能動性が求められるのです。
この休業期間中も会社や仲間に対してどう貢献できるかを一人ひとりが考えて発揮してくれ、創業以来のTRUNKの考え方に共感してくれているメンバーが多いことを、あらためて実感する機会になりました。
ちなみに、先日一部の社員を対象に理念への理解度を図るテストを実施したのですが、平均スコアは、事前に予告をしていなかったにも関わらず私が想像していた以上に高いものだったので驚きました。TRUNKはこの4月から企業理念を刷新していて、オンライン社員総会で説明したばかりだったのですが、皆すぐにキャッチアップしてくれたんです。メンバー一人ひとりがこの3カ月を有意義に使い、理解を深めるために取り組んでくれたのだろうと感じました。
TRUNKは2027年までに東京都内で10棟のホテルを運営するという計画があり、今後会社の規模を拡大していくフェーズにあります。会社の規模が拡大すれば、理念は希釈される懸念はありますが、今いるメンバーが深く理解してくれることで規模が拡大しても理念の希釈の度合は最小限に抑えられるので、強い組織になると考えています。
そういう意味でも、この3カ月間は、今後のTRUNKの礎にもなるべきものを創っていく上で有意義な期間になったのではないかなと考えています。
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