「TRUNKらしさ」をかたちづくるのは、多彩な個性を持ったメンバーの存在です。TRUNKで自分らしく働くことができるのはなぜなのか。一人ひとりの「いま」にスポットを当て、その想いを掘り下げます。今回のTRUNKER’S TALKに登場するのはTRUNK(HOUSE)のプライベートシェフ・芝井大貴。国内外から集まるハイクラスなゲストの好奇心を満たすために意識していることは何か。その創意工夫の原点を語ります。
他にはいない「お菓子も作れる料理人」を目指して。
私はパティシエとして社会人のスタートを切りました。製菓専門学校を卒業後、洋菓子店、レストラン、カフェ、結婚式場などお菓子の修行ができる仕事を渡り歩き、製菓の世界で経験を積みました。その後、T&G(TRUNKの親会社であるテイクアンドギヴ・ニーズ)に入社し、都内の自社結婚式場で提供するウェディングケーキを内製化するセントラルキッチンの立ち上げにも参画しました。仕事は充実していましたが、「洋菓子に加えて料理も学びたい」という意欲が高まってきたため、パティシエとしてのキャリアに一区切りを付けて、そのタイミングでT&Gから離れる決断をしました。
その後、都内のレストランやビストロ、ワインバーなどでジャンルを問わずに学びながら、自分の目指す料理のあり方を求めて経験を積みました。「お菓子も作れる、他にはいない料理人になりたい」と考えていましたね。TRUNKに加わることになったのは、T&Gで勤務していた当時から交流のあったシェフに声を掛けていただいたから。もちろん、その時点でTRUNK(HOTEL) CAT STREETの存在は知っていましたし、同じTRUNKブランドのホテルとして、東京・神楽坂に一棟貸切りの宿泊施設の出店計画が進んでいることもお聞きしました。「この会社ではきっと他ではできない経験ができる」と直感しましたね。「新しい挑戦がしたい」という気持ちになったことが、TRUNKの一員になったきっかけです。
TRUNK(HOUSE)の「食」、そのすべてを取り仕切る。
TRUNKに入社後はTRUNK(KITCHEN)、婚礼の調理担当などを担当し、現在はTRUNK(HOUSE)のプライベートシェフとして勤務しています。TRUNK(HOUSE)で提供する料理のすべてに責任を持つ立場にあり、ゲストの身の回りのお世話一切を引き受けるプライベートバトラーと密に連携を取りながら、国内外からお越しいただく大切なゲストをお迎えしています。
宿泊のご予約が入った際には、食に関するゲストからの要望に最大限お応えします。フルーツ大福などの和菓子を中心としたウェルカムスイーツ、旬の食材を活かしたディナーや朝食はもちろんのこと、お望みとあればランチでも軽食でも、夜食でも喜んでお作りします。ゲストのニーズに細やかに対応するのが私たちの仕事。ご滞在中の食体験を最高のものにするために、ゲストに対して常に目と心を配るようにしています。
TRUNK(HOUSE)は、企業やブランドの周年イベント、特別なお客さまを対象とした展示会などでも数多くご利用いただいています。ゲストも世界各国からお越しになる超が付くほどのVIPばかり。会食や立食にご対応することも多く、お打合せから参加させていただき、その日のゲストに最適な料理をご提案しています。お客様からいただいた難しいテーマに沿って料理を考案することもあり、頭を悩ませつつも、TRUNK(HOUSE)だからこそできるチャレンジだと思って臨んでいます。ほんの一例ですが、「『破壊と再生』をテーマに料理を提案して欲しい」なんてオーダー、他では聞いたことがありませんよね(笑)。そうした、一つ上の挑戦ができることがTRUNK(HOUSE)で働く楽しみでもあります。 私たちTRUNKのCREDOにもありますが、料理に関する発想を豊かにするためにも、日頃から「遊び心を持つ」ことを意識して、自分の興味関心の幅を広げています。あらゆるジャンルの映画を観て、雑誌に目を通し、美術館で絵画と接し、公園や神社で自然に触れる。散歩の途中で気になった飲食店や雑貨屋にふらりと立ち寄ってみる。そうした何気ない時間のなかで、ある時、ふと新しい料理のアイデアが浮かんでくることがあるんです。それがいつ降りてくるか、自分でもわからないのも面白いところです。
超一流のゲストと対峙する緊張感と、他では味わえない喜び。
TRUNK(HOUSE)のゲストは海外の方が多く、食の嗜好や文化的背景が全く異なります。どのような料理が好まれるのか、その答えを巡る挑戦を繰り返す毎日ですね。すでに豊かな食体験をお持ちの方たちばかりですから、当然のことながら、こちらの緊張感も否応なく高まります。TRUNK(HOUSE)ではゲストと同じ空間で料理を作らせていただきますが、超一流ゲストの温かくも厳しい目に晒される場に立つことで、技術と感性が磨かれていくと実感しています。
TRUNK(HOUSE)では、長期滞在されるゲストも少なくありません。料理人から見た場合、連泊していただくゲストが多いことのメリットは「日ごとにゲストの食の好みがはっきりとわかってくること」。最初はそれぞれの好みがわからないので、三日間は肉、魚、葉物、根菜など多彩な食材を使った料理でゲストの反応をうかがいます。箸が進むもの、それほど進まないものをよく観察し、表情なども含めた情報を蓄積しながらゲストを理解していくわけです。その情報を自分なりに分析して、新しい提案を次の料理に還元していくというサイクルです。宿泊当日になってアレルギーや食事制限などの情報をお知らせいただくことも少なくありません。限られた設備や食材の範囲で臨機応変に対応できるよう、常に予測を立てておくことも求められます。一日一組だけのゲストとの真剣勝負ですね。
最近では、ほぼ1ヶ月間続けてご宿泊いただいたゲストがいらっしゃいました。そのゲストからは「1週間、毎朝違った和の朝食が食べたい」というご要望をいただきました。翌朝食べたいものを前夜のうちにお聞きして、都度メニューを考える毎日。結局、1週間だった約束が「毎朝の楽しみになってきたから」と、1ヶ月続けることになりました。まさにプライベートシェフですね。途中からはご自身の好みも率直に伝えてくださって、グッと距離が近づきました。TRUNK(HOUSE)でしか絶対にできない対応ですよね。一食と真剣に向き合い、より良いものを提供することに熱狂できているからこそ、ゲストに驚きと感動を与えられたのだと思っています。
この話には続きがあって、この方は一度チェックアウトされて他県へ向かわれたのですが、帰国される前日に「明日の夜、最後にもう一度だけ、TRUNK(HOUSE)でディナーを食べさせてくれないか?」とご連絡をいただいたのです。プライベートバトラーと一緒に感激したことを昨日のことのように思い出します。私の作る料理をそこまで楽しみにしてくださっていたのだと思うと、料理人としてこれ以上の喜びはありませんね。
いつか自分のお店を。神楽坂の料理人が描く夢。
TRUNK(HOUSE)がある神楽坂には、程よい距離感の付き合いが今も息づいていると感じます。近隣には焼肉屋、日本料理屋、和菓子屋、ワインバー、老舗の豆腐屋などが立ち並び、ジャンルの異なる食のプロフェッショナルたちとの会話を通じて料理の発想が生まれてくることも少なくありません。時間を見つけては神楽坂の町を歩いて、自分の五感で刺激を受けるようにしています。TRUNK(HOUSE)の朝食にすき焼きを取り入れてみたのも、神楽坂のお店の方と話すなかで生まれたアイデア。「すき焼きは夜に食べるもの」という当たり前を疑うことから生まれたこの発想は、海外のゲストからもご好評いただいています。自分たちだけでは思い付くことはなかったかもしれません。
TRUNK(HOUSE)のシェフとして大切にしているのは、「ここを訪れるゲストにとって最高の食体験とは何か?」を考え続けるということ。試行錯誤の末に行き着いたのは、やはり和食の精神でした。旬の食材を活かし、素材の持ち味を最大限に引き出した料理。そこにTRUNKらしさを加えて、海外のゲストにも、日本人のゲストにも喜んでもらいたいと考えるようになりました。TRUNK(HOUSE)の料理を任されてきた歴代の先輩たちの意志を受け継ぎつつ、自分にしかできない料理を主体的に表現したいという意欲が日増しに強くなっています。伝統的な懐石料理の常識に捉われることのない自由な発想も大切にしたいですね。
幸いなことに、TRUNK(HOUSE)では良い意味で料理とサービスの境目がほとんどないため、自分次第でありとあらゆる業務を経験することができます。パティシエとしてお菓子も作れる。シェフとして料理も作れる。そのうえ、ベッドメイキングもハウスキーピングもできる。肩書きとしてはシェフですが、サービス全般を自分一人でも担えるという自信はあります。海外からのゲストとのコミュニケーションをさらに円滑にするために、英語ももっと学びたいと考えています。 私の夢は、いつか自分の店を持つこと。TRUNK(HOUSE)で積み重ねている経験の一つひとつが、その夢の実現に近づけてくれるものです。これまで以上にTRUNK(HOUSE)を愛し、TRUNK(HOUSE)にふさわしい料理やサービスを考え抜いていった先に、私が目指す理想の店の姿もはっきりとしてくるのだと思います。その時が来るまで、まだ見ぬゲストとの出会いを楽しみにしながら、この神楽坂の街で料理の腕に磨きをかけていきたいですね。
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