WANT。それは、会社も自分も幸せになるために、社員一人ひとりが持っている「やりたいこと」を指す言葉。誰かが、自分の心に秘めたWANTに形を与えたいと考えれば、新たなプロジェクトが静かに動き出し、その想いや夢に共感する仲間が自然に集まる。それが、いつしか大きなムーブメントとなっていく。こうした事例がTRUNKにはあふれています。今回お届けするのは、TRUNK(HOTEL) CAT STREETのLOUNGEを華やかに彩る圧巻のフラワーアートを作り上げた、花を通じて表現するふたりのWANTの話。フラワー課の佐藤李花と髙松里帆がラウンジアートを形にするまでの挑戦、そして、それを支えたCREDOについても語ります。

―― 今日は、ラウンジアート”stroke of luck”の制作にあたって、どのような想いを持って挑戦されたのかなど、おふたりにお聞きできればと考えています。まず初めに、ご自身のことを教えてください。

佐藤 2013年、フラワー職として新卒でT&G(親会社のTAKE and GIVE NEEDS)に入社しました。4年ほど都内店舗で勤務した後、当時の上司に声を掛けられてTRUNK開業準備室に異動し、以来、一貫してTRUNK(HOTEL) CAT STREETでの婚礼装花に携わってきました。装花の仕事を極めたいという想いから新たなチャレンジを求めていたので、TRUNKに加わることに迷いはありませんでした。TRUNKのフラワー課には多彩なバックボーンを持った人たちが集まっているので、お互いを高め合うことができていると感じています。

髙松 私は元々、別の花屋で働いていました。花に関わる仕事の幅を広げたいと考えていた時に、TRUNK(HOTEL) CAT STREETのフラワー課の方と出会い、実はその方を通じて初めてTRUNKという存在を知りました。当時、ウェディングの仕事は自分のキャリアの視野にはなかったのですが、「新たな視点で花に関わることができるのではないか」と考え、まずはアルバイトとして入社し、その後、社員になったという経緯です。それまでやっていた小売とは異なり、ウェディングをはじめとした「空間を彩る花の仕事」はお客さまへの提案性が求められます。そこが難しくもあり、面白い部分でもあります。自分のなかに発想を蓄える重要性を感じます。自分よりも経験が多い仲間も多く、声を掛ければ助けてもらえる環境があるのは嬉しいですね。

―― ここに至るまでの経歴はまったく異なっているんですね。花と関わる毎日の仕事の中で、お二人が心掛けていることは?

佐藤 「アイディアのストック」は、常日頃から心掛けてやっていることのひとつです。TRUNKに集まる人たちは、世の中の流行を追うだけでは満足しない玄人趣味な方々が多く、それぞれで専門領域が異なっているため、日々、関わらせていただく中で自分自身に蓄えられていくアイディアのレベルも高まったと感じます。自分以外にも「情報収集の起点」が増えたという感覚ですね。

「モノを丁寧に扱う」という意識も、TRUNKに異動になってから、より一層、強く意識するようになった部分です。世の中を魅了する素敵な作品を創る方たちを見ていると、自分の作品を生み出す道具をとても大切にされていますし、その扱い方や身のこなしも洗練されていると感じます。花束ひとつにしても、人の心を動かす作品を生み出すために、例えば、机の上はいつもきれいにしておくなど、制作環境にもこだわりたいと思っています。社内外を含めて、多くの人から影響を受けている部分ですね。

髙松 「自分らしさを忘れないこと」、そして「感性を磨く」こと。このふたつは特に大切にしていることであり、私にとってはほとんど同じ意味を持っています。自分の感性で選んだ、自分の好きなモノを選び取って身をもって体感しに行く。周りの人たちから得た情報から興味が湧くこともありますが、やっぱり自分らしさを基準にして選んでいきたいと思っています。

TRUNKに加わる以前から、花はもちろん、アートや建築などへの興味はありましたが、多様性あるTRUNKの人たちと関わることで、私の興味にも「幅」と「深み」が加わったようなイメージですね。

いつか自分たちでもラウンジアートを。
持ち続けたWANT。

―― では、今回のラウンジアート ”stroke of luck” について、改めて紹介していただけますか。

佐藤 作品名の ”stroke of luck” は、「思いがけない幸運」という意味です。この作品はTRUNK、ネオン管を使ったアート作品を手掛けるネオンベンダー・山本祐一さん、溶融して色素を混ぜた蜜蝋で描く古代から伝わる技法「エンカウスティーク」を用いた作品で知られる中瀬萌さん、三者のコラボレーションによって生まれました。

髙松 このラウンジアートを作るにあたり、TRUNK(HOTEL) CAT STREETの開業7周年の節目に合わせる形で、「ラッキーセブン」からインスピレーションを広げた、「幸運」や「幸福感」を感じてもらえるラッキーカラーである「黄色」をテーマにしました。モチーフの構想には「pennies from heaven(思いがけない幸運)」が降り注ぐイメージで、「pennies(銅貨)=コイン」のような丸をメインモチーフに、丸い花と丸いネオンを掛け合わせて考えています。

―― 黄色の可愛らしい花が印象的な作品ですよね。ネオンやエンカウスティークとの組み合わせも、他にはない存在感を放っています。元を辿ると、「ラウンジアートを手掛けたい」という想い、WANTは、いつ頃から持っていたのでしょうか?

髙松 TRUNK(HOTEL) CAT STREETでは、これまでにいくつものラウンジアートが制作・展示されてきましたが、基本的には外部の作家さんを中心とした作品が多く、TRUNKメンバーが制作を手がけた作品は多くはありません。その意味でも「いつかラウンジアートを自分たちでやりたい」という気持ちを持っていました。今回ようやく念願が叶ったという形です。通常業務があるなかでの挑戦となるので、当然、負荷は大きいのですが、それでも「やってみたい!」という気持ちが強かったですね。

佐藤 私も自分のなかで「いつかラウンジアートをやってみたい」という気持ちは持っていました。「TRUNKのラウンジアートを手掛けたい」というよりも、「これまでに飾ったことのない場所で、花の魅力が伝わる作品を飾りたい」という想いの方が強いかもしれません。今回、社内のラウンジアート担当チームから声を掛けてもらったときは本当に嬉しかったですね。これだけの作品をTRUNKメンバーで制作・実現できたというのは、大きな自信になりました。

「永遠の幸福」だけで、
TRUNKらしいラウンジアートを作りたい。

―― たとえ業務量が増えたとしてもやってみたいというのは、まさにWANTですよね。では、具体的にはどのようなインスピレーションを得て、作品のアイディアを作り上げていったのでしょうか?

佐藤 TRUNKらしい「振り切ったデザイン」にするために、花は敢えて1種類に絞り、本数を多く使うことで、他に類のないダイナミックな装飾に仕上げようと。これは大きな決断でした。私たちの仕事の中心であるウェディングの装花は、何種類もの花材を使って華やかな装飾を仕上げていきます。常にたくさんの種類の花材を取り扱っているため、その対極にある「1種類の花で作品を作りたい」という思いを持っていたんです。

髙松 私もプロジェクトが始まる前から、「1種類の花だけで大きなオブジェを作りたい」と思っていました。初めて佐藤さんと話したタイミングでそのことを伝えたら、偶然にも同じことを考えていて。「じゃあ、花材は1種類にしよう!」となったのが始まりです。

佐藤 ハイブランドのフラワーデザインの事例などからも学びながら、ラウンジアートのデザインの大枠を練っていきました。アイディアとしては10以上は出したと思います。制作に関わるメンバーからは「空間に対するボリューム感や尖りが欲しい」といったアドバイスもいただいたのですが、自分たちのなかにある「1種類の花材でやりきりたい」という思いを貫いて、作品をブラッシュアップしていきました。最後は、「そこまで熱意があるならやってみよう」と背中を押していただき、作品の方向性を決めていきました。

髙松 多くの有識者から、異なる視点で貴重な意見をいただきました。ラウンジアートのあり方として「圧倒的なボリューム感」「込められたストーリー」「感性に訴えるフォトジェニックさ」などが挙げられるなかで、「自分たちは何がしたいのか?」を問われていました。当初の共有イメージを軸として「TRUNKのラウンジアートにふさわしいデザインとは?」について徹底的に考えました。

佐藤 デザインが決定して、まずは当初から明確だったテーマやイメージカラーと親和性のある花材を探しました。採用した花材は「永遠の幸福」という花言葉を持つ黄色い花の「クラスペディア」。球状の花を初夏から秋に咲かせるキク科の一年草で、小さな黄色い花を咲かせます。

髙松 今回のラウンジアートでは、30個以上の半円形モジュールを組み合わせていて、そのモジュールひとつにおよそ500本近い数のクラスペディアを用いています。ひとつのモジュールを作るのにどれだけ急いでも3時間は掛かりました。これだけ大きなラウンジアートなので、日本国内だけではクラスペディアを賄いきれず、海外からも輸入することになって。最終的には2万本以上のクラスペディアが使われることになりました。この時、日本で一番クラスペディアの花が揃っていたのは、間違いなく、ここ、TRUNK(LOUNGE)でしたね(笑)。

「95%からの勝負」が、
心を動かす「違い」につながる。

―― 実にチャレンジングな作品だったことがよくわかります。そうなると尚のこと、完成に至るプロセスにおいて、困難を乗り越えるためにCREDOの発揮が必要だったと思います。特に意識された場面や行動があればぜひ教えてください。

佐藤 花材としてクラスペディアを用いるのはかなりチャレンジングでした。この花は一輪がかなり小さいため、アイディアの段階から不安要素ではありました。実際にTRUNK(LOUNGE)の空間に飾ったときにどのくらい映えるのか。空間に対するボリューム感は十分なのか。そのあたりの想像があまりつかず、試作を繰り返しました。実は、制作段階で「他の黄色い花を混ぜたほうが良いのか…」という考えも一瞬、頭をよぎったこともありました。でも、「それではTRUNKらしくない」「唯一無二ではない」と信じ、初心を貫きました。まさに「考え抜く」という私が大切にしているCREDOの一つですよね。妥協しなくて良かった。心から、そう感じています。

プロジェクトを進めるなかでは、クラスペディアの必要本数の算出、予算との兼ね合いなど、頭を抱える場面が何度もありました。制作にも当初考えていた何倍もの時間が掛かりましたが、それでも「このクラスペディアという花材にこだわり、他にはない振り切ったラウンジアートを作りたい」という思いを大切にして、たくさんのハードルを乗り越えて実現まで持って行くことができました。最後まで同じゴールに向かって進む仲間と切磋琢磨できる環境があったからこそ、ひとりでは辿り着けない結果に結びついたと思います。

髙松 TRUNK(LOUNGE)での設置は、たしかに「最後まで諦めずに考え抜く」というTRUNKらしさが表れていました。展示が始まる前日の23時頃から設置を始めたのですが、深夜2時頃になって、「あれ? 思っていたイメージと何かが違う。これでは素敵に見えないかも…」と感じてしまい、施工会社の方を巻き込んで大幅な方向転換を図りました。時間が許す限り、クラスペディアの最大の魅力である「黄色の美しさ」が最も際立つ設置方法を模索しました。

もちろん、その時の違和感を無視し、妥協して、当初の予定どおりに展示することもできたはずです。その方が時間的にも余裕ができますし。それでも、私たちは最後まで最高の展示方法を考えたかった。CREDOのひとつに「95%から勝負する」というものがありますが、その言葉を「自分たちが実現したい表現のために、最後まで考え尽くす」という意味だと捉えるのであれば、あの日の深夜2時は、間違いなくこのCREDOが体現された時間でした。私たちのこだわりに対して、施工会社の方たちなど外部パートナーにお付き合いいただけるのも、TRUNKが大切にしている価値観がしっかりと伝わっているからではないかと思います。一緒に作品を作ってくれる方たちには、本当に感謝しています。

―― おふたりが大切にしているCREDOが発揮されていたんですね。制作に関わるメンバーの様々な想いが化学反応を起こして、ゲストを魅了するラウンジアートとして実を結んだかと思うと、チームで進めることの醍醐味を感じます。今日はありがとうございました。

SHARE THIS ARTICLE