四季折々の風景が美しい、緑あふれる代々木公園に隣接するTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARK。コンセプトに「Urban Recharge」を掲げ、都会のくつろぎと刺激を同時に愉しみ、明日へのエネルギーへとつなぐ体験を提供する。
このコンセプトをもとに、建築とインテリアを担当した芦沢啓治氏とノーム・アーキテクツのヨナス・ピエール=ポールセン氏とフレデリック・ウェルナー氏に、TRUNKアトリエの木下との対談によって詳らかにしていく。どのような背景でTRUNKと協業し、日本とデンマークの美意識を融合した唯一無二なホテルをつくりあげたのかを語ってもらった。
<木下昌之>
TRUNKアトリエ チーフクリエイティブオフィサー。開発、建築、空間デザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、企画を担うクリエイティブ部門であるTRUNKアトリエを統括。
<芦沢啓治>
「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。「正直なデザイン」をモットーに、建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。国内外の建築やインテリアプロダクト、家具メーカーの仕事を手掛けるほか、東日本大震災から生まれた「石巻工房」の代表も務める。
<ノーム・アーキテクツ>
2008年設立のデザインスタジオ。デンマーク・コペンハーゲンを拠点に、人々の経験を豊かにデザインするデザインに取り組んでいる。本プロジェクトはヨナス・ピエール=ポールセン氏とフレデリック・ウェルナー氏が担当。
<木下>
まずプロジェクトのはじまり、我々の出会いについてお話したいです。TRUNKから芦沢さんへお声掛けし、芦沢さんがノームアーキテクツを招致したと記憶しています。恐らく3年前、4年前でしたよね。
<芦沢氏>
2019年なので4年前ですね。野尻さんとTRUNK(LOUNGE)のBARで初めて話したことを覚えています。マスクをしていなかったのでコロナ前の2019年で間違いないと思います。
<木下>
当時からTRUNKのことはご存じでしたか?またTRUNK(HOTEL) CAT STREET及びTRUNKブランドについてどのような印象を持っていますか?
<芦沢氏>
もちろん知っていましたし、何かのパーティでホテルに来たこともありました。
印象は“東京初のデザインホテル”ですね。「東京で最もクールなホテルはどこか?」と東京へ来る知人によく聞かれるのですが、「TRUNKがいいに違いない」と言っています。 雰囲気もいいし、ロビーもいいし、サービスもいいし、といった具合に伝えています。
また、私はMenu(現Audo Copenhagen) のマット氏の言葉も印象に残っています。彼からTRUNK(HOTEL)に滞在した時の感想を聞いたのですが、空間が本当にクールで、サービスにも感心したと言っていました。当時私は自分の仕事にいくばくか誇りを持っていましたが、TRUNKとの関りは全くない状態でした。ですので、今回TRUNKからオファーの連絡が来たときはとても驚きました。最初はコンペに違いないだろうと思っていましたし、リノベーション的なプロジェクトだと思っていました。しかしコンペではないこと、そしてゼロからの新しい建築プロジェクトだと伺い、なんてラッキーな案件が自分のところに来たのだろうと思いました(笑)。
<木下>
私たちはコンペティションという選考形式をあまり信用していません。信頼関係を築く前にデザイン提案によってデザイナーの実力を推し測ることはTRUNKの価値観には適さないと考えているからです。私たち自身が、実績から彼らのデザインを分析し、そのデザイナーが持つ哲学を理解しようとします。また、私たちの考える理想像を具現化し、さらに私たちにはない新しいアイデアをもたらしてくれるデザイナーを毎回探しています。
<ノーム・アーキテクツ>
自分たちの何に期待しているのかを把握でき、その上でお互いの哲学や理想像が共有され、信頼関係ができていれば、すべてのプロセスを簡略化できますよね。
<木下>
ノーム・アーキテクツのお二人はTRUNKのことを知っていましたか?
<ノーム・アーキテクツ>
はい。面白いエピソードがあります。数年前初めて東京を訪れることになった時、友人の編集者に「東京に行くならどこのホテルに泊まるべきだろうか?」と意見を求めました。彼は笑いながら「コペンハーゲンと同じように東京にクールなホテルはほとんどないよ。でも、本当にいいホテルがひとつだけある。TRUNK(HOTEL)だ」と。
<木下>
本当ですか?それはとても嬉しいことです。
<ノーム・アーキテクツ>
だから芦沢さんから今回のTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARKの話しを聞いた時、とても興奮しました。
<木下>
私たちもノーム・アーキテクツのお二人と一緒に協業できると思ってもいなかったので、芦沢さんには本当に感謝しています。
<ノーム・アーキテクツ>
ほかにもTRUNK(HOTEL)を訪れた人々に話を聞くと、ただのホテルではないということは明らかでした。彼らは、ここでしか体験できないコミュニティやその空気感や居心地に魅了されているということでした。これはとてもユニークなことだと思います。なぜなら、旅をするときは世界中にあるチェーンホテルを選ぶ人がほとんどだと思っていたからです。コミュニティを目当てにホテルを選ぶ人たちにとっては、TRUNK(HOTEL)を選ぶことは当然のことだったのでしょう。普通のラグジュアリーホテルではなく、自分らが何らかの形で地元のコミュニティの一員になったと感じられる、オリジナルな体験を求めているのだと思います。
<木下>
私たちがホテルをつくる時にもっとも大切にしているのは、場所の感覚です。クッキーの型抜きのようにコピー&ペーストしてホテルをつくることは簡単にできますが、そうではなく、その土地、場所でしか成立し得ない、その場所だけの記憶をつくるホテルこそ、私たちが目指すものなのです。今回のTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARKでいうと「Urban Recharge」がコンセプトになっています。
<ノーム・アーキテクツ>
あらゆるものがグローバル化されており、多くのアイデアはデジタルで共有できてしまうため、旅行をしているとどこに行っても同じような錯覚をすることがあります。したがって、地元に根付き、ユニークで、その場所ならではの感覚を持ったものに立ち返る動きは、非常に重要だと思います。
<芦沢氏>
私にとってホテルという場所の価値は「経験」「体験」です。そのホテルに宿泊することによって、自分がどのようなインスピレーションを受けるのか。その点がもっとも大切であり、もちろん、この考え方はTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARKにも反映されています。
<ノーム・アーキテクツ> 今回、客室をはじめホテル全体がその点において非常に良かったです。大きなラグジュアリーホテルよりも人間的なスケールで、かなり親密な感覚を得られるからです。これが成功のために非常に重要な要素になったと思います。
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