世の中に対して様々なムーブメントや新しいカルチャーを仕掛ける、クリエイティブディレクターの小橋賢児とTRUNK社長の野尻佳孝。仕事に全力投球を続け実業家として活躍する一方で、家族を大切にする夫、父親としての顔を持つ二人は、仕事や遊び、そして家族との時間をどのように考え、それぞれにどのように向き合っているのか。
公私ともに縁のある二人の対談の中から、彼らのクリエイティビティの源流を辿ります。

子どもファースト、家族ファーストな北欧

小橋:
この間、子ども連れのお母さんたちが、一流シェフの料理を食べられるというイベントを開催しました。以前、家族でフィンランドに行ったんですが、完全に子どもファーストで家族ファーストな国なんですよね。いいレストランにも連れて行けるなど、子どもと家族が一緒に過ごすための環境が整っています。子どもができて思うのは、日本は子どもを連れて行けない場所が多くて、子どもがいると味もサービスもそれなりのお店に追いやられるということ。子どもと行けるレストランは「こんなもんでしょ」という感覚が根付いてしまっています。

野尻:
みんなが諦めてるんだよね。僕も子どもと一緒だと、上質さとか、「子連れだからしょうがない」と一回捨てないといけないものが多くあります。家族で寿司屋に行くにしても、子どもを連れていけないという暗黙のルールがありますよね。僕らは会食などで行く機会もありますが、特に子どもを連れたお母さんたちには優しくない現状です。

小橋:
「子どもOK」と書いてあったとしても、空気的に行けないですからね。少しずつ諦めているうちに、どんどん追いやられてしまいます。少子化と言われて久しいですが、子どもを連れて居心地よく過ごせる場所は、まだまだ少ないと感じています。土曜日だけは子どもOKとか、そういう仕組みを増やしたり、社会の空気も変えていければと思います。

野尻:
テイクアンドギヴ・ニーズのグループには保育園を運営している会社もあるし、そもそも、グループ全体で、日本で一番、新郎新婦のお手伝をしている企業です。結婚の次にあるのが出産や子育てだとすると、子どもや家族向けのサービスは自然な流れというか、使命として取り組まないといけないことだと強く感じています。

「場」を作る意義とは?

小橋:
クリエイティブを通じて気付きの場を創造して、その人の内なるクリエイティビティを引き出すこと。日本ではこの情報化社会の中で情報から逆算して、いい大学に入るためには勉強しなければならないとか、逆算的に導いた「have to」みたいなものが多いと感じています。でも本来は、子どもの時に何をしたいか、何にチャレンジしたいかという「want to」を生み出すトレーニングを重ねることで、一人ひとりの人生がクリエイトされていく。僕は一度も、フェスのディレクターになりたいとか社長になりたいと思ったことはありませんが、「want to」の繰り返しの先に未来ができあがっていました。こういう人生の築き方は、もっと多くの人にあってもいいなと思っています。

野尻:
私の場合は、自分が行きたい場所を作ることですね。これまでも、自分たちが行きたいと思える場をつくり続けてきました。賢児の言葉を借りると、自分の「want to」を突き詰めたらビジネスが生まれて、今があります。

これは! と感じたものがビジネスにつながる

野尻:
自己分析すると、怠け者ではあるものの、行動力はありますからね。新しいものはいち早く見に行こうとしてきたし、自分の「want to」で始めないと、なかなかスイッチが入らないというのもあって。ブライダルも含めて、自分が「これは!」と感じたものをビジネスにしてきました。最終的にはやっぱり、それらを自分で体験してどう感じるのかに尽きますね。

小橋:
多くの人は立場が上がるにつれて、もうわかった気になって今を見なくなりがちですが、野尻さんは今もいろんなシーンをリアルに見て、数字だけではなく、自分の感覚を信じて行動している。だからこそ、いつの時代も人々の消費傾向やセンスを捉えた新しいビジネスを生み出しているんだと思います。

野尻:
先日、賢児が自宅に来た際にも色々と話しましたが、最近の私の行動の源泉は家族ですね。朝も昼間も子どもが寝ている時も、抑えきれないほどの愛情を感じていて、自分がこんな風になるとは思ってもいなかったけど、家族との時間に幸せを感じています。

小橋:
日本では、家族をかえりみないほど仕事をしないといけない時代が長く続いてきました。でも今は時代が変わって、働く意味みたいなものさえ問われる時代。家族と過ごす時間から生まれる「want to」のほうが、これからの本流になっていく気がしています。

野尻:
子どもはあと10年もすれば巣立ってしまうので、この5年間くらいは、もっともっと子どもや家族の話を賢児とも話して、新しいことを始めたいですね。

家族中心が自然体で、イケてる時代

野尻:
最近は日本でも家族とライフスタイルに対する考え方が大きく変わってきていると感じていて、それは「イクメン」みたいな表面的な言葉ではなく、消費も嗜好も、ライフスタイルごと「フォーカスオン家族」になっていくような。

新しい家族のカタチというか。自分の中でもまだ明確にはなっていないですが、例えば私たちよりも年下の家族は、少なくとも新しいスタイル。家族を中心に捉えたライフスタイルが自然で、それがイケてると言われる時代になってきています。

なぜ家族の時代がやって来たのでしょうか?

小橋:
時代が、物質の時代から心の時代に移行しているというのも大きいと思います。20世紀は物質文明で、物質に囲まれることが豊かとされていました。21世紀になるとインターネットを誰もが持つようになって、そうすると情報がたくさんあることが豊かさと勘違いして、その次に心の豊かさを追い求めるようになった。そうすると、行き着くのは家族。ある意味原点回帰で、人間の本質に戻ってきていると思います。

子育てこそが最高のクリエイティブ

小橋:
先日北欧に行った時、行きは子どもと二人だけで、初めての体験だらけでした。子どもと一緒に人生をやり直すっていうのもいい経験ですよね。

野尻:
それは最高。私も夏休みには毎年、息子と男二人旅に出かけています。二人とも行ったことがない場所に行くと、パパもパパらしくできないし、カッコつけられない。子育ては、視点を変えると自分育て。家族のことをネタにすると気持ち悪いと思われていた時代から、こういう話をじっくりできる時代になってきました。私にとっては今、子育てこそが最高にクリエイティブな楽しい遊びです。子育ての話だけでまだまだ、ここから3時間くらい語れる気がしますが、今日のところは、ここらへんで。

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