株式会社TRUNKが手がけるブティックホテル第一号として、東京・渋谷に満を持して誕生したTRUNK(HOTEL)。
「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げ、いまだかつてなかった新たな場として、国内外から多くのゲストを迎えています。
私たちはこのTRUNK(HOTEL)を、構想から開業までに約5年という長い時間をかけ、丁寧に作り上げてきました。立ち上げに至るまでのすべての行程を社長の野尻と二人三脚で進めてきた人事部長の市川裕秀が、その試行錯誤の経緯や秘話を語ります。

世界中のホテルを訪れたどり着いた、”ブティックホテル”という答え。

TRUNK(HOTEL)の計画が立ち上がった当時のお話を教えてください。

市川:
私がTRUNK(HOTEL)の親会社であるテイクアンドギヴ・ニーズで人事を担当していた5年ほど前に、会社の新たな成長戦略としてホテル事業をやっていくことが決まりました。それ以降、私はクリエイティブセンターという部署に異動になり、社長である野尻と共にその実現に向けて動き出しました。まずはホテルの現状を知る。そのためにニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ポートランド、ロンドン、パリ、さらには北欧のスウェーデン、デンマークなど海外のホテルを視察して回りました。

 その結果、日本にもすでにあるラグジュアリーさを売りにしたホテルよりも、ブティックホテルと呼ばれる、メッセージ性が強くてこだわりのある独立系のホテルが単純にすごくかっこよく見えたんです。デザインはもちろん、スタッフの提供するサービスや、そこで流れている音楽、香りなど、空気感も含めたさまざまなことを五感で体験し、こんなホテルが日本にもあったらいいよねというところから、TRUNK(HOTEL)のプロジェクトがスタートしました。

かっこよさだけではない、メッセージ性のある空間を作る。

コンセプトはどのような経緯で決まっていきましたか?

市川:
当初はかっこよさを基準にプロジェクトを進めていましたが、1年半ほど経った頃に、お金さえあれば誰でもできるし、時間とともにかっこよさのトレンドは変わることに気づきました。ただかっこいいだけでは劣化していくし、淘汰されてしまう。やはりホテル周辺の地域の方々や世の中のみなさんに支援していただくためには、なにかもう少しコアなメッセージ性、我々が想い、大切にしていく軸のようなものが根幹に必要だと感じて、自分たちの中にある価値観や、やりたいことを突き詰めて考えていきました。

社会貢献を新しいビジネススキームに。

 その結果、のちに弊社のコアバリューになる、独創、革新、誠実、貢献という4つのキーワードにたどり着き、そこから「ソーシャライジング」という新しい概念、コンセプトをつくり出したんです。それはどういうことかといえば、事業を行いながら、世の中の社会課題を解決したり、その考え方を啓蒙したりしていくこと。我々が経済的に成長すればするほど、世の中に貢献していけることが増えていく。商品がひとつ売れるごとに社会課題の解決に向けてサポートしていけることが増えていくようなビジネススキームに挑戦していきたいと思ったんです。

 そこから再度ゼロベースで、ソーシャライジングと照らし合わせてみて、内装や扱う商品などホテルに関わるすべての物事について、これって違うよね、やっぱりこうしていくべきだよねと確認しながら、ひとつひとつ組み上げていきました。

ソーシャライジング実現のカギは、”社会貢献”と”グッドテイスト”の両立

ソーシャライジングのコンセプトに合致しているかどうかは、どのように判断していますか?

市川:
 実際にソーシャライジングを具現化するにあたって、我々が判断基準として大切にしたことはグッドテイストであることなんです。空間であればかっこいい、食べるものであればおいしい、イベントであれば楽しいなど、人の欲求に対してポジティブな感情をグッドテイストと呼んでいるのですが、例えば、社会貢献に直結するイベントを行ったとしても、それがつまらないものであってはダメだと思うんです。だからまずはグッドテイストが100%表現されていることが必須で、その上でソーシャライジング、つまり社会貢献につながる要素をどれだけ入れられるか。逆にいえば、ソーシャライジングを100にすることで、グッドテイストが80とか70に下がるなら、それは我々の基準では間違いなんです。

無理なく、肩肘を張らず。気軽に参加できる社会貢献をお客様に。

 家具であれば、それが素晴らしいからこそメイドインジャパンのものを選択する。館内のアートワークはかっこいいからこそ国内の障害者の方の作品、アウトサイダーアートを飾る。ラウンジのバーはいい雰囲気に仕上がるからこそ古材を使用する。それぞれ社会への貢献度はバラバラかもしれませんが、確実にグッドテイストが感じられる空間を作ることで人が集まってくる。その結果、お客様は意識していないかもしれませんが、自動的にソーシャライジング活動に加わっていただいていることになるんです。

ホテルの固定概念を覆した、フロントの空間設計

ホテルを訪れるだけで、なんらかの社会貢献につながるということですね。

市川:
 そうですね。だからそのためには、宿泊者に限らず、多くの人が過ごしやすい場所にしたいと考えました。一般的なホテルであればフロントがある場所を、TRUNK(HOTEL)ではバーにして、その前のスペースには、さまざまな用途で使っていただけるよう、ソファー席、シングル席、コンセントがとれるデスクなど、多様なタイプのイスとテーブルを用意しました。

 また、宿泊者向けのアメニティは、例えば、歯ブラシであれば、デザインや耐久性にこだわり、ケースもつけて、家でも使いたくなるものを置いています。同じように部屋での履き物は、簡易的なスリッパではなく、しっかりとしたサンダルを選びました。いずれも1回で捨てられてしまうぐらいなら、長く使ってもらえるものをつくったほうが、結果的にソーシャライジングになるんじゃないかと考えました。

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